調査結果

リーダーシップの類型による国際比較

「組織とリーダーに関するグローバル価値観調査2015」※1より

リーダーシップに関する研究は数多くなされていますが、共通の見解があるとすればそれは「リーダーシップに正解はない」ということでしょう。普遍的に有効なリーダーシップというものは存在せず、組織の価値観や成熟度によって効果的なリーダーシップは変わりうる、という考え方です。

では「国」という観点で見たときに、国の価値観や成熟度によって効果的なリーダーシップは変わるのでしょうか。変わるとすればそこにはどのような傾向があるでしょうか。
国別に効果的なリーダーシップの傾向を理解しやすくするため、まずリーダーシップの類型化を試みました。

表1 リーダーシップの2つの類型
  リーダーシップのスタイル 特徴
トップ牽引型
リーダーシップ
リーダー個人の資質や能力によって組織をけん引するリーダーシップ・スタイル ・自信がある
・活力がある
・戦略的である
・指示が明確である
・決断力がある
組織開発型
リーダーシップ
メンバーの主体性や能力を引き出すことで組織力を高めるリーダーシップ・スタイル ・人を育成する
・人の話を聞く
・多様性を重んじる
・権限委譲できる
・ビジョンを示す

※世界15ヵ国(地域)の企業に勤める一般社員に、自分が所属する組織のリーダーを評価してもらい、その評価データを用いて因子分析を実施。分析結果の解釈から2つの類型を抽出。(特徴:構成因子)

「トップ牽引型」は、リーダー個人の資質や能力によって組織を牽引するリーダーシップ・スタイルで、古典的・伝統的なリーダーシップの型と言えます。一方「組織開発型」は、メンバーの主体性や能力を引き出すことで組織力を高めようとするリーダーシップ・スタイルです。「トップ牽引型」がリーダー個人の力量に多く依存するのに対し「組織開発型」は組織を構成するメンバー個々の力や可能性に期待するという特徴があります。

2つの類型の傾向の強さを、リーダーに対する評価データを使って国別に算出し、プロットしたものが図1です。中央に引いた線より左上に位置する国は「組織開発型」のリーダーシップ、右下に位置する国は「トップ牽引型」のリーダーシップがより効果的、ということになります。

図1 リーダーシップの類型による各国比較

青色の国 先進国(IMFが定義する"Advanced economies")
赤色の国 新興国(IMFが定義する"Emerging market and Developing economies")
コーチング研究所調査 2015年

国を分類する方法は様々ありますが、ここではIMFの定義(※2)に基づき先進国と新興国へ分類しました。すると先進国では、シンガポールのように「トップ牽引型」の傾向が強い国や日本のように「トップ牽引型」と「組織開発型」が拮抗している国があるものの、多くの国は「組織開発型」のリーダーシップがより有効なことが分かりました。先進国、つまり経済的な成熟度の高い国は、「トップ牽引型」よりも「組織開発型」のリーダーシップが効果的、ということが言えそうです。

新興国はどうでしょうか。新興国ではブラジルやタイ、インドのように「トップ牽引型」の傾向が強い国と、中国やロシア、インドネシアのように「組織開発型」の傾向が強い国に二分されています。どちらのリーダーシップ・スタイルが効果的かは、経済的な成熟度だけでは説明できないようです。

さまざまな国の価値観を調べ、指標化したものに「Hofstede指数」(※3)がありますが、そのひとつに「長期的志向」(Long-term orientation vs. short term orientation)があります。伝統的な規範にとらわれない未来的な志向の強い価値観です。この「長期的志向」と「組織開発型」リーダーシップの有効度との相関を、新興国6ヵ国で見たのが図2です。

図2 「組織開発型リーダーシップの有効度」と「長期的志向の度合い」の関係

組織開発型:組織開発型リーダーシップの有効度(図1)
長期的志向:Hofstede指数(※3)
コーチング研究所作成 2015年

「長期的志向」と「組織開発型リーダーシップの有効度」との間には相関があり(相関係数0.90)、「長期的志向」の価値観を持った国ほど「組織開発型」リーダーシップの有効度が高い、という結果になりました。

「トップ牽引型」のリーダーシップはリーダー個人の能力に頼るスタイルのため、優れたリーダーがいなくなると組織はそれまでのパフォーマンスを出せなくなる恐れがあります。一方「組織開発型」は、権限委譲しリーダーシップをメンバーと共有する分、組織のパフォーマンスを長期的に維持しやすいスタイルと言えます。そう考えると「組織開発型」が「長期的志向」と親和性が高いのもうなずけます。

もちろん国の価値観は、その国の歴史や地理的要因、政治体制などが複雑に絡み合って形成されるものです。ひとつの指標で全てを理解することはできませんが、「長期的志向」の解釈は、国の価値観がその国の効果的なリーダーシップに影響を与えることを示す一例にはなるでしょう。先ほど、先進国では「組織開発型」リーダーシップがより有効という結果を紹介しましたが、これも経済的な成熟度だけでなく民主主義や個人主義といった価値観の影響を受けていると考えるのが妥当ではないかと思われます。

冒頭に申し上げたようにリーダーシップに正解はありません。組織の価値観や成熟度によって機能するリーダーシップは変わってきます。それは今回見てきたように、国という観点でも言えることのようです。グローバル化の進展によって、海外の人々と仕事をする機会が増えています。リーダーシップをより効果的に発揮するためには、まず相手の価値観をよく理解することから始める必要がありそうです。

※1
「組織とリーダーに関するグローバル価値観調査2015」
調査対象:15ヵ国(地域)1,500人(各国100人),企業に勤める非管理職の25~39歳の男女
調査期間:2015年4月
調査方法:インターネット

※2
「IMFの定義」
International Monetary Fund(2015).World Economic Outlook Database.

※3
「Hofstede指数」
Geert Hofstede"Research and VSM" and "The Dimension Data Matrix"

お問い合わせ

関連レポート

2015年2月18日

「組織の変化」に影響を及ぼす要素
「リーダーシップおよび組織の状態」に関する調査の結果から、「社員間のつながり」が「組織の変化」に強く影響を及ぼすことがわかった

 

2017年2月14日

異文化研究 総経理のリーダーシップ
日本と中国で異なる「会社の成長」を促すポイントとは

 

調査レポート一覧