調査結果

何が良好な上司と部下の関係をつくるのか

「組織とリーダーに関するグローバル価値観調査2015」※より

前回までの調査レポート「優れたリーダーの特性とその国際比較」「リーダーシップの類型による国際比較」で、国によって評価されるリーダーシップに違いがあることが分かりました。今回は上司と部下の関係にフォーカスした分析結果を紹介します。

「上司と部下の関係における良好度に違いはあるのか」「良好度を高めるコミュニケーションの要素は何か」という視点で、国別に上司と部下の関係を明らかにしていきます。

1. 各国の「上司と部下の関係における良好度」

15ヵ国(地域)の各100人に「直属の上司との関係がどれくらい良好か」について質問し、「4良好」から「1良好ではない」の4択で回答をしてもらった結果が図1です。

図1 各国の「上司と部下の関係における良好度」

上司との関係が良好と答えた1位はインドネシアとなっています。また、下位5ヵ国は東南アジアの国々でした。このような結果となった背景には何があるのでしょうか。

2.「良好度」と「会話の充足度」の関係

「上司との関係が良好かどうか」と関係の強い要素を分析したところ、「上司とのコミュニケーションが十分足りているかどうか(以降、「会話の充足度」)」と関係が強いことが分かりました。会話の充足度は、「4十分足りている」から「1全く足りていない」の4択で回答をしてもらいました。図2に上司と部下の関係における「良好度」と「会話の充足度」の関係を示します。

図2 「良好度」と「会話の充足度」の関係

グラフは左下から右上に分布する結果となっており、「良好度」と「会話の充足度」の相関係数は0.83と強い関係があることが分かりました。

部下が上司とのコミュニケーションが十分だと感じる「会話の充足度」は、会話の「量」と「質」が関係しているはずです。次の3章では「量」、4章では「質」の視点から各国の特徴を見ていきます。

3. 各国の「上司と部下の会話の量」

上司と部下の会話の量について見ていきます。直属の上司と部下は仕事に関してどれくらいの頻度で話しているかを、国別にみた結果をグラフにしたのが図3です。

図3 各国の「上司と部下の会話の頻度」

「ほぼ毎日上司と話している」と「週に数回話している」の合計割合でみると、上位3ヵ国は、インド、イギリス、フランスです。インド、イギリスは、「良好度」「充足度」のいずれも上位5ヵ国に入っています。反対に、上司との会話頻度が低い国は、中国やシンガポールは、「良好度」「充足度」のいずれも下位5ヵ国に入る結果となりました。一部例外があるものの、会話の量は「良好度」「会話の充足度」と関係があるようです。

4. 各国の「上司と部下の会話の質」

「会話の充足度」に影響する「会話の質」はどういったものなのでしょうか。分析の結果、会話において「上司と部下のどちらが長く話しているか」が関係していることが分かりました。回答者には、「上司が話している時間の方が長い」「自分(部下)が話している時間の方が長い」「ほぼ同じ」の3択で回答をしてもらいました。

結果、上司と部下の話す量が「ほぼ同じ」と回答した人の割合と「会話の充足度」の間には、0.70と強い相関関係がありました。これは、上司と部下が同じ量を話すことが、部下のコミュニケーションが十分足りているという実感につながることを示唆しています。一方、「上司が話している時間の方が長い」と「会話の充足度」の間は、-0.66と負の相関がありました。上司が話している時間の方が長いと、部下はコミュニケ―ションが十分とは感じない、ということになります。

図4は、上司と部下の話す割合を国別にグラフにしたものです。

図4 各国の「上司と部下が話す割合」

いずれの国も「部下が話している時間の方が長い」と答えた割合は小さく、「上司が話している時間の方が長い」もしくは「(両者が)ほぼ同じ」のどちらかが多く選ばれています。

上司と部下が同じ量の話をしている割合が多い上位の国は、イギリス、スウェーデン、アメリカです。下位の国は、中国、日本、香港で、この3ヵ国は「良好度」と「会話の充足度」のいずれも低い点で共通しています。

上司と部下が同じ量を話す"双方向の会話"が少ないことは、「良好度」「会話の充足度」を下げることへ繋がるようです。

5. 日本の特徴

これまでの結果を日本に注目して振り返ってみましょう。

日本は上司と部下の関係における「良好度」「会話の充足度」がともに非常に低い結果でした。会話の頻度は15ヵ国中4位と比較的高いものの、上司と部下の話す割合が「ほぼ同じ」と回答した人の多さは15ヵ国中14位(29%)と低くでました。反対に「上司が話している時間の方が長い」は4位(53%)となっています。これらの結果から、日本では「会話の頻度」が高いものの「良好度」「会話の充足度」が低いのは、会話において上司が話している時間が長いことが原因であることが推測できます。また、フランスも日本とやや同じ傾向が見られました。

6. まとめ

本レポートでは、国別にみた上司と部下の関係における良好度とそれに関係する要素は何かを調査しました。良好度は、部下が上司と「コミュニケーションを十分にとれている」と感じていることに関係しています。また、そう感じるためには会話の頻度が高く、話す割合が上司と部下で平等であることがポイントになることが分かりました。ただし、これだけでは説明できない国もあり、良好度には他にも関係する要素があると考えられます。

今回の分析結果では、国によって上司と部下における会話の頻度や一方が話す割合は様々でした。最終的には各組織、各個人を見ながらの対応が必要となりますが、国ごとのおおまかな傾向としてマネジメントの一助になれば幸いです。


「組織とリーダーに関するグローバル価値観調査2015」
調査対象:15ヵ国(地域)1,500人(各国100人),企業に勤める非管理職の25~39歳の男女
調査期間:2015年4月
調査方法:インターネット

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