調査結果

経営者と役員の壁が組織にもたらすもの

経営者が役員から「忌憚のない意見」を引き出せていない組織は、社員のエンゲージメントが低い

コーポレートガバナンスに注目が集まっています。ガバナンスの強化により、経営の透明性や健全性を高め、企業価値向上を図ろうとする企業が増えています。それに伴い、社外取締役を活用する動きも活発になっています。社外の視点を取り入れるのが主な狙いですが、背景には、役員など社内の人材では経営者と対等に意見を交わすことが難しく、自浄作用が働きにくいという事情もあるようです。

経営者と役員との間にある意思疎通の壁。その存在を最も認識しているのは経営者本人かもしれません。

図1は、経営者が自身の「リーダーとしての意識と行動」を評価した結果です。リーダーシップに関する全40項目の中で、自己評価の高い項目と低い項目を示しています。

図1 経営者の「リーダーとしての意識と行動」についての自己評価
経営者の自己評価「リーダーとしての意識と行動」

7段階評価 (1.全くあてはまらないー7.とてもよくあてはまる)
n=35
コーチング研究所調査2016年

自己評価の高い項目は、「目的に則って行動する」「信念を持つ」「会社や社員を想う」など経営者としての志に関わるものでした。一方、自己評価の低い項目は、部下(役員)との意思疎通に関するもので、最も低かったのは「忌憚のない意見を引き出す」でした。経営者自身が役員に「率直な意見を言わせていない」と認識していることがわかります。

この「忌憚のない意見」に関して、役員はどう感じているのでしょうか。経営者から「忌憚のない意見」を引き出されているかに対する役員の回答平均は4.8で、40項目の中5番目に低い項目でした。つまり、役員も"忌憚のない意見を引き出されていない"="忌憚なくものが言えていない"と認識しているようです。

経営者と役員が「忌憚のない意見」を交わせない状態は、経営チームに様々な問題を引き起こすと想像できます。こうした状態の影響は単に経営チーム内の問題にとどまらない、というデータを紹介したいと思います。

図1と同じ経営者の企業を、「(A)経営者に忌憚なく意見できている役員が半数以上いる企業」と「(B)半数に満たない企業」の2つに分け、それぞれの社員の状態(社員の自己回答)を比較しました。「社員の状態」全32項目の中で、(A)と(B)の差が大きかった3項目は表1の通りです。

表1 経営者と役員の関係別にみた「社員の状態」
社員の状態 平均値 差分
[A-B]
グループ(A)
n=3,857
(24社)
グループ(B)
n=908
(11社)
私は、知り合いにこの会社で働くことをすすめたい 4.6 3.7 0.9
私は、会社のビジョンや中長期目標を知っている 5.5 5.0 0.5
私は、会社のミッション・企業理念やコアバリューに共感している 5.4 4.9 0.5

グループ(A) 「対象者(経営者)は私から忌憚のない意見を十分引き出している」の評価が高い役員が半数以上の企業 (7段階評価で5-7を選択)
グループ(B) 「対象者(経営者)は私から忌憚のない意見を十分引き出している」の評価が低い役員が半数以上の企業 (7段階評価で1-4を選択)
n=4,765(35社),7段階評価(1.全くあてはまらない-7.とてもよくあてはまる)
コーチング研究所調査2016年

役員が経営者に「忌憚のない意見」を言えていない会社では、社員は「知り合いに会社をすすめたがらない」という結果になりました。経営者と役員の関係が、社員の会社に対するエンゲージメントにまで影響することがわかりました。

役員が経営者にどのくらい忌憚なくものが言えているか――。それは、経営の健全性を測るバロメータになるだけでなく、会社そのものの健全性を測る指標としても有効と言えそうです。

調査概要

調査対象:35社(経営者35人、役員421人、社員4,765人)
調査期間:2011年9月~2015年2月
調査方法:ウェブアンケートへの回答
調査内容:Executive Mindset Inventory

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